シゲちゃん

昔、立川に運送会社のお客さんがあって、シゲちゃんはその会社のドライバーだった。
細身で背が高くて、日焼けして引き締まった顎に眼光が鋭い、ありがちなオジサンで、
荷物室が銀色の箱で、後ろに観音開きの扉がついている大型トラックを転がしていた。

いっぷく は事務所で徹夜ばかりなのに、シゲちゃんは朝4時に出発する便の担当で、
こっちが眠くてヘロヘロな時にシゲちゃんは超ハイテンションで、冗談ばかり言っていた。

その時刻に、トラックが十数台一列に並んで後ろの扉を開け、商品を積み始めるのだ。
そして、昼過ぎには次々と帰ってきたトラックがまた扉を開けて、商品を降ろしてゆく。

ある日、棚卸誤差が多すぎると言われて、徹夜でカウントしてみると、ほぼ合っている。
ところが昼間には、なぜか在庫切れになって、現場から事務所にクレームが出るのだ。

調べると、降ろしたはずの商品がない。さらに調べると、とんでもない場所に置いてある。
さらにさらに調べると、降ろしたのはシゲちゃんだということがわかり、事務所に呼んだ。

事務所の責任者が血相を変えて問い詰めると、シゲちゃんはいつもの笑顔でこう言った。
「俺ぁ気になんねぇぜ?気になるなら気になる奴が好きなようにやりゃあいいじゃんよぉ」

ある日、シゲちゃんは同僚の車をバック誘導し、車が止まったところで後ろの扉を開けた。
ところが、エンジンが回っていてギアも抜いていなかったため、エンジンを止めたとたん、
車は数センチほどバックし、反動で扉が勢いよく開き、そばにいたシゲちゃんを直撃した。

一瞬のできごとだったが、シゲちゃんは頭から少し血を流して、倒れたまま動かなかった。
ドライバーは顔色を失い、居合わせた人は救急車を呼び、轢かれてはいないと証言した。
脈も呼吸も正常だが顔面は蒼白で、頭からの出血は止まらず呼びかけても意識がない。

万一に備えて警察を呼ぼうかとか、誰か奥さんの勤め先を知っている人はいないかとか、
念のためまた脈拍を確認しようとか、保険の番号はわかるかとか、慌しい時間が過ぎる。
なかなか来ない救急車を誘導するために、自主警備隊のパトカーがゲートに急行する。

「頼むよ、シゲちゃん。ぜんぶ許すから死ぬな。」「シゲちゃん、家族はどうするんだよ。」
少しずつ広がる血だまりを凝視しながら、みんなが口々にシゲちゃんに呼びかけ続けた。

と、むっくり起き上がったシゲちゃんが「いってぇー」と笑う。一同ほっとため息をもらした。
「大丈夫か」「俺誰だかわかるか」などと言っているうちに、自警パトと救急車が到着した。

しばらくの問答ののち、自警パトと救急車は帰り、シゲちゃんは仕事に戻ることになった。
当のシゲちゃんときたら、言うに事欠いて、「もし縫うようだったらどうしようと思ってさぁー」
「病院恐ぇからよぉ?」 死に損ねたのはそれが理由か。倒れてまで状況を読まないとは。


いっぷく (^^_ 。・
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by nekoyasiki_ippuku | 2005-10-07 17:01 | 喜怒哀楽


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