秋葉原へ行ってきた。「やっちゃば」の移転が決まってから、この町は変わってしまった。
女給が歌って投げ銭を稼ぐそばでは、貧相な軍服姿の娘が魔法がどうとか喚いていたし、 青白い男が客引きよろしくビラを撒いていたり、匍匐前進で写真を撮っている連中もいた。 昔の秋葉原には、妙ちくりんな腐女子も、腐女子目当てのタ●ナシ野郎もいなかったが、 野菜市場こと「やっちゃば」の男衆と、家電を叩き売る怪しい店員と、技術者たちがいた。 「使えるなら持ってって。電気のことは解んないから。」と豪語するジャンク屋のババアと、 ハキダメに鶴のようなラーメン「壷」の若奥さんぐらいしか女性を見かけることはなかった。 パーツ屋のオヤジは、巨人がラジオで勝てば昼間でも店を閉め、負けても店を閉めたし、 「帰りの電車賃がなくなる」と言えばマケてくれることでラジオ少年に有名な店があったり、 6AU6(真空管)の替わりにUL規格の怪しげな米軍払下げ品を掴まされたこともあった。 家電の主力はまだオーディオで、高価な機器を並べたリスニングルーム(視聴室)があり、 そこにたむろする常連は無線機を手作りできて当然で話題は新製品の回路設計だったし、 ソ連のジャミング(妨害電波)を2分間黙らせた、と豪語する長野の山頂の住人までいた。 また前置きが長くなった。秋葉原へ行って、日通の跡地にできたヨド●シカメラへ寄った。 新しいゲーム機が売り出しとかで大混雑だったが、何とか用を足した帰り道のことである。 何階の売り場か忘れたが、奥の方にリスニングルームがあり、スピーカーが並んでいて、 薄暗い部屋の中で、今鳴っているスピーカーの番号が正面の表示板に表示されていた。 定年間近とおぼしきお客がひとり、スピーカーの切り替えスイッチ盤の前に陣取っており、 スピーカーからはサラ・ブライトマンの タイム・トゥ・セイ・グッバイ が生々しく鳴っていた。 お客がスイッチを切り替えるたびに、表示板の番号が変わり、音の位置と音色が変わる。 どうやらそのお客は、前方右のほうから左りほうへ順番に聞き比べるつもりのようだった。 すると急に音が右後ろに移動した。振り向いたがスピーカーはない。しかも左後ろへ動く。 音源を探ると、短髪のブロンド女性が同じ曲を鼻歌で歌いながら通り過ぎるところだった。
by nekoyasiki_ippuku
| 2006-12-10 22:04
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