それは、陽射しの翳る季節から、白いものが舞う季節へかけての長く厳しい旅の物語
「冬の北海道には猫が居ない」 「え?なんで?」小学生にそう言ったことがある。この子の兄とグルで。 「なんで?どうして??」 私はふぅっとため息をつき、視線を外して餌に食いついた魚の感触を味わう。 兄のほうはニヤニヤして、『また始まったよ』という顔をしたので、鋭く目で釘を刺した。『シッ!・・・あんたも協力しなさい!』 「北海道の冬は長いのよ。10月くらいになって熊がよく里に下りて来る話しは聞いたことあるよね?餌がなくなってお腹空かせるのね」 「うん、うん」 「北海道のさ、猫もそうなのよ。寒くなると、ネズミも鳥も居なくなるし、第一、外はマイナスまで気温が下がるじゃない?」 「猫は寒がりだからねー」と兄が飼い猫をさわりながら合いの手を入れる。 「だからね・・・」内緒話をするように、小さな声で小学生の耳元にささやく慌てて、頭を寄せてくる小学生。ぶははは・・・人を騙す、快感じゃぁ! 「この季節から、雪が降るまでの間に・・・・海を渡って本土にやってくるのよ、猫が。」 「え?そうなの?」驚いて、中学生の兄の顔を見ている。 「お前、知らなかったの?渡り猫って言うんだよ」悪い兄だ。 「寒さを逃れるために、この季節、津軽海峡をニャーニャー、ニャーニャー鳴きながら、たくさんの猫が渡るのさ。あるものは途中で力尽き、あるものは助け合って、必死に泳ぐのよ」 「猫って泳げるの?」 「犬掻きと同じ要領でさ、それに脂肪や毛皮が守ってくれるし(嘘ばっかだなぁ)」そろそろ危ないかな? 「ふぅーーん」信じるんかい? 「暗い海の白い波間に猫がニャーニャー言いながら、渡るわけよ。冬の間は北海道の猫が全部そうやって移動しちゃうんだよねー」 「そう、それで北海道には冬の間、猫が居ない」兄がうなづく。 「で、いつ帰ってくるの?」 「雪解け前くらい。4月頃になると、またニャーニャー言いながら、海を渡るのさ。ちょうどその後かな?サカリになるのは。立派に渡った猫だけが子孫を残す、厳しい掟なのよ」 「そっかー。北海道の猫は大変なんだね」優しい子や(笑) すっかり信じた子に、兄が言う 「あいつ、思い込みの激しい奴だから、たいがいにしておいて」 分かった。分かった。たいがいにしておくわ・・・(^^; それから、5-6年経ってのこと。3月も末。 「あのさー、嘘ばっかり言うの止めてよねー。北海道に猫居るじゃん!!」 すごい剣幕で携帯電話がかかってきた。 中学の卒業記念に、北海道へ独り旅に行って地元の人にあの話をして一笑に付されたそうだ。そりゃそうだ。 ってかさー、信じてたんかい?まだ! 思い込みの激しい子で遊ぶのはたいがいにしておこう・・・と反省。 今回の北海道でいっぷくがタクシーの運転手さんに聞く まー、そーだろーねー。でも、一応確認。念のため確認
by nekoyasiki_ippuku
| 2006-09-13 10:56
| 喜怒哀楽
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